④ 旧玉ノ井 

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引越してきて父親は2回ウチに来た。どうして帰って来なくなったのか分からなかった。誰も説明してくれなかった。聞いちゃいけない雰囲気だった。たまに父親が来ると母親がウキウキとして喜ぶ。それが嫌でしかたなかった。私は箸の持ち方が悪かった。それを見た父親が私の手を正しい持ち方にしてギューッと握った。私はそんな事で持ち方が変わると思ってんの?と心の中で思った。しばらくして、給食でお箸が出るようになり友人に間違った持ち方を見られるのが恥ずかしくって自然と持ち方は直った。

母親は定期的に私を連れて父親に会いに行った。おそらく生活費を貰いに行っているのだろう。行きたくなかった。「行きたくない」と言っても連れていかれた。子供の頃の記憶だが千葉の「柏」だったと思う。母親は行きの電車の中で「「お父さんお小遣い下さい」って言うのよ。「お腹空いた」って言うのよ」と何度も言った。駅に着くと父親は車で来ていた。助手席に母親が乗り、後ろの席に私が乗った。何かやり取りし、それが終わると母親は私の顔を見た。「あっ!いわなくちゃ」と思い、「お父さんお小遣い下さい!」と勇気を出して言った。父親は何も言わず3000円くれた。そして「お父さん、お腹空いた!」そうすると車を出しカウンターだけしかない汚いラーメン屋へ連れて行った。三人並んでラーメンを黙って食べた。ちっとも美味しくなかった。そして父親から貰った3000円は母親の懐に入った。
駅まで帰って来ると自転車のサドルが盗まれていた。私は「お金がかかる!」と思った。母親の反応も見たくなかった。すかさず「お母さん、大丈夫!立ち漕ぎで帰るから!」と言って本当に立ち漕ぎで帰って来た。これから父親に会いに行かなくなった。

ある日、私より少し年下の男の子を連れて来た。誰だか知らない。ウチには父親、その男の子、私の三人しかいない。父親は緑色のカエルをモチーフにした貯金箱を持って来た。それは手にコインを置いて引くとコインが宙に舞いカエルが口をパクっと開けてコインがお腹の中に入る仕組みだ。その男の子が喜ぶもんだから父親は小銭を出して何度も何度も遊ばせた。私の時の態度とは程遠く呆れてしまった。

つづく。

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